日本の城ある記(関東の城・前橋城) 

 関東の城 トップページへ 日本の城ある記 トップページへ 
 前橋城  (まえばしじょう)

訪問記
 前橋城は関東七名城の一つに数えられる城郭。利根川東岸の台地上に築城された輪郭式の平城である。利根川を背にして本丸。東に二の丸、北に高浜曲輪、南に厩曲輪、さらに東に三の丸が配置されていた。しかし現在残る遺構にその面影はない。本丸には群馬県の県庁庁舎が建てられ、その他も公共施設によって占拠されている。もともと石垣はほとんどなく、土塁で守られた城郭であり、土塁の一部が残るものの利根川岸の土塁は護岸工事で改修されている。建物で残っているのは皆無である。手元の城絵図のコピーには壮大な城郭が描かれており、これを頼りに残された城の痕跡を探したが、私の知識ではたいした収穫は得られない。かつての城跡には巨大で華麗な現代建築が圧倒的な存在感で鎮座している。それもまた、地域を支配する役割を担っていた城郭の跡地には相応しい建造物なのかもしれない。(2015年2月24日)
 この地に最初に築城したのは室町時代の延徳年間(1489〜1492)に箕輪城を拠点とする長野氏によりその支城として築かれた石倉城が始まりとされる。石倉城は天文3年(1534)の利根川の氾濫で崩壊したため、当時の城主であった長野賢忠が石倉城の三の丸を中心として城を再築し、これが厩橋城と呼ばれるようになったとされる。
 戦国時代、厩橋城はめまぐるしく支配者が入れ替わる。それだけこの地が北関東の重要拠点でもあった証である。天文10年(1541)に長野賢忠は深谷上杉憲賢らとともに金山城の横瀬氏を攻めるが敗退し、その後に上野に侵攻した越後の長尾景虎に従う。しかし天文20年(1551)小田原北条氏の上野侵攻に伴い、今度は小田原北条氏に従う。永禄3年(1560)には小田原北条氏についた長野氏を上杉家の家督を継いだ長尾景虎(上杉謙信)が厩橋城を攻略して長野氏を中心とする厩橋衆を壊滅させる。以後厩橋城は上杉謙信の関東侵攻の拠点となる。なお、このあたりの経緯には諸説あるようである。
 永禄6年(1563)厩橋城は小田原北条・甲斐武田の連合軍によって攻め落とされ、その後再び上杉氏によって取り戻され、越後の北条高広が城主となる。しかし永禄10年(1567)北条高広は小田原北条側に寝返り、北条一族の支配となる。その後、永禄12年(1569)武田信玄に対抗するため、越後の上杉謙信と小田原北条氏との間で「越相同盟(越相一和)」が結ばれ北条高広は再び上杉側に帰参することになる。
 天正7年(1579)上杉謙信の死後、北条高広は武田信玄の後を継いだ勝頼の侵攻に降伏し、引き続き城主として厩橋城に留まるが、天正10年(1582)勝頼が織田信長によって滅ぼされると、信長方の滝川一益の侵攻に降伏。しかし、信長が本能寺の変で亡くなった後、滝川一益は武蔵神流川で小田原北条氏と戦い、これに破れた為、厩橋城は再び小田原北条氏の支配するものとなる。
 天正18年(1590)豊臣秀吉による小田原征伐の際、厩橋城は豊臣側の浅野長政によって攻略され、同年の徳川家康の関東転封にともない、家康の家臣平岩親吉が3万3千石を拝領して厩橋城の城主となった。
 関ヶ原の戦の後、慶長6年(1601)平岩親吉は甲斐甲府へ転封。代わりに武蔵川越より酒井重忠が入封。重忠は城を大改修して近代城郭の体裁を整える。この時から厩橋城は前橋城と呼称されるようになる。
 城を防御する役割でもあった利根川は、一方では坂東太郎と称される暴れ川でもある。宝暦7年(1757)利根川の浸食で本丸の一部が崩壊。藩主松平朝矩は財政難でもあったため城の改修をあきらめ本拠地を領地であった武蔵川越に移転する。城は破却されて前橋藩は川越藩となり、前橋は川越藩の領地として陣屋支配となる。文久3年(1863)、横浜開港に伴い前橋領の特産品である生糸の輸出が活況となり財力が回復。前橋町民の要請もあり、時の藩主松平直克は幕府の許可を得て前橋城の再築に着手。慶応3年(1867)に直克は前橋城に入城し、前橋藩が復活する。しかしその半年後に幕府は大政奉還し江戸時代は終焉を迎える。

   前橋藩 歴代藩主
 家紋  入封時期 禄高  入封時藩主  
天正18年
(1590)
3万3千石 平岩親吉(譜代) 家康の関東入封に伴いその家臣の平岩氏が前橋(厩橋)城主となる
慶長9年
(1604)
3万2千石 酒井重忠(譜代)武蔵川越より入封 元禄年間(1688〜1704)に厩橋から前橋に改称する
寛延2年
(1749)
15万石 松平朝矩(家門)播磨姫路より入封 明和4年(1767)利根川の氾濫により城が崩壊。本拠地を川越に移す。
慶応3年(1867)川越から還封する。

  ページトップへ 

 
Copyright(C) tenjikuroujin.jp All Rights Reserved.