日本の城ある記(東海の城・大高城)

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 大高城  (おおだかじょう)

訪問記
 私が生まれた場所の近くに大高城はある。近くとは言っても隣の隣町程度の距離はある。今は名古屋市に編入されたが私が子供のころは知多郡大高町といった。小学校高学年の時、多分6年生の頃だと思うが、大高まで5、6人の悪ガキ連と一緒に遠征したことがある。遠征という大袈裟な言葉を使ったが、子供の社会にも縄張りがあり、越境するにはそれなりの覚悟が要った。子供同士が喧嘩をした程度では大人も騒がないし、マスコミが取り上げるような時代ではなかった。 今は名古屋のベットタウンとして人家の絶えることなく住宅地が開発されているが、当時は畑地や雑木林がほとんどで人家はまばらでしかなかった。歩いてゆくには少し遠い距離なので子供用の自転車を連ねていった。遠征の目的は雑木林に自生する栗の実や柿の実を採るため。はっきりとその場所を記憶していないが城跡や砦跡はあったように記憶している。しかし当時は城跡の存在などどうでもよかった。もっぱら胃袋を満たすことしか興味はなかったが、残念ながら栗の実は発見できず、柿も小さなしぶ柿しか手にすることはできなかった。苦労の割にはまさに実の無い成果で、がっかりした思い出だけが残っている。社会人になってから、この辺りには自動車の部品メーカーの工場や事務所が多く進出して、仕事で訪れたことは頻繁にある。だが大高城に立ち寄ろうなどとは考えもしなかった。今川と織田の勢力争いとなった歴史に名高い城であるが、徳川の時代になって廃城となったと聞いていたので興味をそそられるような遺構など存在していないと思っていた。それでも、城跡巡りを趣味の一つとしている今は、郷土の英傑が活躍した城跡を見ないのも心苦しく、所用で名古屋に立ち寄ったついでに訪れることにした。子供の頃初めて城跡(多分そうだと思う)に立ち入ってから実に50年以上経っている。現在城跡は県有地として城址公園となっているが、残念ながら当時をしのばせる遺構はほとんど残っていない。大高城は廃城になった後、尾張藩の家老が一万石の禄を得て居住していたようだが、その屋敷跡の痕跡もない。古地図を見れば二重の堀に囲まれた、結構強固な城構えであったようだが、自然の急斜面を利用した土塁や堀はほんの一部分を残して防災上の配慮から切り崩されている。ここが上洛を目指して西に勢力を伸ばそうとした今川側の最前線基地であったとはとても想像できない優しいのんびりとした空気に包まれている。
 大高城から直線で1キロも離れていない丘陵地に鷲津砦がある。織田側が大高城をけん制するために築いた砦である。ここにも立ち寄ってみたがやはり周囲は住宅地に囲まれていて戦場の雰囲気は全くない。平和であることが当たり前の現代人にとって、戦国時代を想い起すには少なからずの想像力を必要とするが、その想像力も現地の雰囲気がそれなりの影響力を与えてくれないとなかなか湧いてこない。ともあれ、残暑の厳しい暑い1日だったが、子供の頃を思い出してのんびりとしたひと時を過ごすことができた。それと、大高城下には城下町の雰囲気が残る古い民家や造り酒屋があることを発見。これは収穫だった。(2012年8月28日) 
 
 大高城の築城年代ははっきりしないが、南北朝の時代(1336〜1392)に尾張守護であった土岐氏の配下が砦を築いていたとされ、永正年間(1504〜1521) には花井備中守が城を築いたとされる。天文年間(1532〜1555)には水野氏が織田信長の父・信秀の配下として城を守っていたが、信秀の死後、天文21年(1552)にそれまで織田方であった鳴海城の城主・山口左馬介が今川側へ寝返り、その過程で大高城を奪う。永禄2年(1559)今川義元は朝比奈輝勝を大高城主として派遣。これに対して信長は鷲津、丸根の二つの砦を築いて対抗。当時の大高城は標高差20mの丘の上に東西106m、南北33mの城郭を築き、二重の堀を巡らしていた。鷲津、丸根両砦は標高約35mの丘陵地の尾根上にあった。
 永禄3年(1560)、いわゆる桶狭間の戦いの年、今川義元は妹婿の鵜殿長照を城主に派遣する。しかし鷲津、丸根両砦に兵糧の運びこみを阻止され困窮する。これを助けるため義元は松平元康(後の徳川家康)に兵糧の運び込みを命じ、元康は鷲津、丸根を攻撃し、激戦の末に両砦を落として兵糧の運び込みを成し遂げ、そのまま大高城にとどまる。松平元康と鵜殿長照は尾張に侵攻してきた今川義元の到着を大高城で待ったが、義元は途中の桶狭間で織田信長に討たれ、今川軍も駿河へ敗走した。これを知った鵜殿長照は駿河へ、松平元康は岡崎に戻る。大高城は再び織田側の支配下となるが、まもなくして廃城となった。
 従来、今川義元は上洛のために尾張に侵攻したとされているが、近年の研究では上洛ではなく領土争いのためであったとされている。また、義元が信長に討たれたおかげで、松平元康(家康)は岡崎城主として独立し、以後着実に天下取りに邁進するきっかけとなった。
 徳川の時代になって、元和2年(1616)尾張徳川家の付け家老・志水氏が廃城となっていた大高城に居館を建てて住居にし、明治まで続く。

鷲津砦

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